2010年12月23日木曜日

北の国から届いた小さな画集

札幌に行くたびに寄らせてもらう居酒屋さんがあります。ススキノにある『大漁居酒屋てっちゃん』がそれ(北海道札幌市中央区南三条西4 カミヤビル7F011-271-2694)。ここは、僕が知るかぎり日本でいちばんすごい刺身盛りを食べさせてくれる店であるとともに、店内が丸ごとアート・インスタレーションと化した、超絶のコラージュ空間であることでも広く知られています。まだ行ったことのないひとのために店内写真をお見せすると、このとおり!



店主「てっちゃん」こと阿部鉄男さんは、そんな庖丁人でありながら、手が空くと調理場から出てきてマジックを披露してくれたり、なかなかの趣味人でもあるのですが、ここ数年は油絵に凝っていて、毎日出勤前はかならずアトリエにこもって制作、調理場でも手が空くと、まな板の上にスケッチブックを開いて色鉛筆のデッサンを練習しているそう。

そんなてっちゃんの絵を、そっと見守っていた奥さんが先月、数部だけの画集にしてプレゼントしたということで、僕も一部いただくことができました。これがいいんですねー。


美大卒業生のようなテクニックも、プロのような仕上げの巧さも、てっちゃんの絵にはもちろんありません。でも、描くことの純粋なよろこびが、どのページにもあふれています。家族、犬、そして身近な風景。対象への愛情と、筆をふるう楽しさが、1枚1枚の画面から飛び出してきそうです。






クロウトの作品ではなく、シロウトの趣味の絵のほうに、かえって元気をもらえるって、いったいどういうことでしょう。プロになるには、「とにかく絵を描きたい!」というエモーションを押し殺したり、コンセプトでコーティングしないとダメなのでしょうか。プロの美術批評で「絵ごころ」という言葉は禁句かもしれませんが、アートで「絵ごころ」以上に大切なものって、なにがあるんでしょう。

居酒屋のオヤジさんが仕事の合間に描いた、つたない小さな作品集は、僕にいろんなことを考えさせてくれました。


愛犬を抱くてっちゃん