2010年9月22日水曜日

東京右半分:欲望の街のミュージック・シェルター 2

風俗と居酒屋とスナックが渾然一体となった、湯島のドンキホーテ裏の一角。<プチシャンソンパブ セ・ラ・ヴィ>というその店は、名前からするとシャンソニエ、つまり生でシャンソンを聴きながら、お酒を飲める空間である。


もともと銀座でナンバー・ワンを張っていたという、シャンソン歌手のマダム順子が、この店のオーナー。もう30年ほど前に開店した当初は、マダムと外語大の学生たちがアルバイトで入ってシャンソンを聴かせていたが、いつのころからか、湯島にほど近い上野・東京芸大の音校生(音楽部の学生)たちが働くようになった。


ピアノ、バイオリン、声楽……日本最高の音楽大学で学ぶ彼らは、いずれもプロを目指す本気のアーティストたち。そんな芸大生が代々、店のスタッフを引き継ぐようになって、様子は一変した。いまでもマダムはシャンソンを歌うのだが、学生たちが演奏するのはもちろんクラシックがメイン。10人近いラインナップが、2人か3人ずつ日替わりで入っていて、夜7時半から11時半という短い営業時間に、3回もショータイムを設定している。


CDやテレビでいつも見聴ききしている一流演奏家とはちがうけれど、彼らはいずれもプロの卵。技術はたしかだし、なによりこれほどの至近距離で音楽に浸れるという体験は、なにものにもかえがたい。

ふだんなら逢うどころか、すれちがうチャンスすらない、良家の子女ぞろいの演奏家の卵たちにお世話されて、額がくっつきそうな距離で杯を交わしながら、とびきりの室内楽に酔ってみたり、お色気映像付きのカラオケでキャーキャー言い合ってみたり。いままでいろんな店に行ってきたけれど、こういう場所は、まずないです。

http://www.chikumashobo.co.jp/blog/new_chikuma_tuzuki/