2010年1月27日水曜日

東京右半分:下町風俗資料館









水面を見事におおう蓮・・の枯れ草が寂寥感を盛り上げる上野不忍池。湖畔にたたずむ白塗りの建物が、下町風俗記念館。1980(昭和55)年に開館して、今年で30周年を迎える老舗の資料館である。いまは全国各地に「昭和の暮らし再現館」みたいな施設がたくさんできているが、下町風俗記念館はその先駆けともいうべき存在。「田舎の民具は資料として残されても、都市生活者の日常を記録・保存しようという施設がまったくない」ことに危機感をいだいた区民や文化人の声に行政が動くかたちで、昭和42年に委員会が発足。昭和49年ごろから広く寄贈をつのって、それをただ展示ケースに並べるのではなく、”情景展示方式”と言われるようなシーン・メイキングのスタイルをとることができたのは、学芸員の石井広士さんによれば「設立に関わった方々が、震災前の暮らしを実体験として知っていたから」。震災、戦災、乱開発という3回の大変革を経験してきた人々が参加することで、再現された情景はリアリティの強度を増すことになった。






1階丸ごとと、2階の一部を使ってセットされた情景展示エリアは、通常のミュージアムのようにただ見るだけではなく、入場者が展示の中に入り込み、情景の一部になることができるようにつくられている。靴を脱いで畳の部屋に上がり込み、ちゃぶ台のお茶セットにかぶせた手ぬぐいを持ち上げてみたり、箪笥を開けて中の着物を見て、触って、そこに住んでいるはずの人間の気配を感じ取ることができるのだ。





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