2009年11月4日水曜日

演歌よ今夜も有難う:第12回アップしました!


初秋の靖国神社。カラオケにあわせて、能舞台で歌い踊る女性がいる。絣のもんぺ姿、腰には日の丸を差して、「空をつくよな大鳥居 こんな立派なおやしろに 神とまつられもったいなさよ 母は泣けますうれしさに・・」と、『九段の母』を熱唱しながら、仰ぎ見る靖国の青空。舞台前に並んだ椅子で、みじろぎもせずその姿に見入るお年寄りの団体、いぶかしげに通り過ぎる観光客・・。官能小説の大家・団鬼六の夫人にして演歌歌手・黒岩安紀子さんの、もうひとつの姿だ。


終戦の年、昭和20年に生まれた黒岩さんは、自分の生を戦争と切り離して考えることができずに、いままで生きてきた。生まれたのがあと一年、半年早かったら、いったいどうなっていたのだろう。いまの平和な日本を自分たちは享受してなんの疑問も持たないが、その陰で流された血を、犠牲になった命を、どれだけ顧みたことがあるだろうか。

いたたまれぬ思いから、彼女はみずから歌を作り、特攻隊基地のあった知覧を訪れたり、東京大空襲で犠牲になった人々の遺族を訪ね歩き、靖国神社で歌を奉納するなど、さまざまな活動をたったひとりで続けている。いっぽうで、竹久夢二の耽美世界を描く『夢二憂愁』(2008年)や、「男と女の人生は 狐と狸の化かし合い・・」(『知らぬは亭主ばかりなり』1999年)のようなコミカルな曲も歌いながら。


その歌の世界も、自身の生きてきた道も、さまざまに陰影に富む、そんな人生を、彼女は歩んできた。旦那様に負けず劣らず濃厚きわまるその人生は、あまりにエピソード満載なため、上下2回に分けての掲載となります。

http://webheibon.jp/enka/2009/10/12.html