2009年6月25日木曜日

紀伊國屋書店広報誌SCRIPTAの書評連載 「読みびとしらず」:『中国低層訪談録』



紀伊國屋書店が季刊で配布している広報誌スクリプタで、「読みびとしらず」と題した書評を連載しています。今号で取り上げているのは『中国低層訪談録』。1958年に中国四川省で生まれた詩人・廖亦武(りょう・えきぶ リャオ・イ ウ)が、天安門事件を題材にした作品を発表したために東京に捕らえられ、4年間の投獄生活を送ったあと、獄中で習い覚えた簫(しょう=尺八式の伝統的管楽器)を手に地方を渡り歩き大道芸人として暮らしながら、巡りあった庶民の人生を聞き書きした404ページにおよぶ大部のインタビュー集です。


 浮浪児、乞食の大将、同性愛者、出稼ぎ労働者、麻薬中毒者、女遊び人、人買い、トイレ番、死化粧師、老地主、老紅衛兵、法輪功修行者、地下カトリック教徒、チベット巡礼者、破産した企業家、冤罪の農民、天安門事件の反革命分子・・・。登場する31人の”低層の人々”は、日本流の負け組や、格差社会の下部に位置する人間とは、まったく次元の異なる世界に生きる人間たち。
 『春秋』以来、中国の歴史=「正史」とは為政者たちの歴史でした。4000年にわたって中国という巨大国家を下支えしてきたにもかかわらず、まったく顧みられることのないまま、つねに「正史」の外に置かれてきた、圧倒的な数の”庶民”の生活を描き尽くす、これはオーラル・ヒストリーの偉大な成果です。メモもテープレコーダーもいっさい使わない、その取材方法も含めて、脱帽するしかない彼の壮絶な生きざまに、文筆に関わるものとして深く考えさせられました。この夏の必読書に、ぜひ!
 なおスクリプタのバックナンバーは、紀伊國屋書店のウェブサイトでも読むことができます。
http://www.kinokuniya.co.jp/02f/d05/scripta/